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◯がない魚の話🐟

私たちの体内には当たり前のようにありますが、それを持たない魚がいます。
全ての魚が持たないというわけではありません。
しかしそれを持たない魚もいます。しかも数種だけでなくそこそこ多くの魚がそれを持っていません。
私たちにとって身近な魚にもそれを持たないものがいます。
もしかすると、これらの魚を長年飼育していて「自分はこの魚について詳しいよ!」という方はご存じかもしれません。

さて、「それ」とは一体何でしょうか?

それは「」です。

胃は食べたものを一時的に貯め、消化吸収し、その下にある十二指腸へと少しずつ流していく役割を持った臓器ですね。
私たちがごはんを食べると食べたものは胃に送られ、胃が満たされるとお腹がいっぱいになります。私たちの体内には胃が1つあるので他の動物もみんなそうかと思いがちですが、牛やヤギ、キリン、多くのクジラなどはなんと胃を4つももっており、それぞれが役割を持って消化を行っています。
魚であればタイやマグロ、カツオ、サメなど多くの魚が胃を持っていますし、あまり見つかっていない魚が胃を持っていたらその内容物を調べることで何を食べどんな生活をしているのかを調べる参考になることもあります。
私が好きなサメにイタチザメというのがいるのですが、やつらはとにかく貪欲なので胃を開くと餌として食べた魚やウミガメの一部が出てくるだけでなく人間が海に捨てた産業廃棄物まで出てくるのだとか。他の海洋生物でも、開いてみるとプラスチックだったりビニール袋だったりが出てくることもあって人間の罪深さを感じてしまいますね。

話が逸れてしまいましたが、このように多くの動物が胃を持つのに対し、先述の通り胃を持たない魚もいて、代表的なものをいくつか挙げると

・コイ
・フナ
・金魚
・サンマ
・イワシ
・メダカ
・フグ
・ブダイ
・トビウオ

などがそれに該当します。
こういった魚は「無胃魚(むいぎょ)」と呼ばれます。

胃を持つ魚(有胃魚)は、口から入った食べ物が食道を通って胃に入り、一時的に蓄えられつつ消化吸収が行われ、さらに腸でも消化吸収が行われて残りかすとなったものは糞として肛門から排泄されます。消化にも長い時間を要します。
一方の無胃魚は食道の次が腸なので、食べてから消化されるまでが早く、蓄えておく場所もないためすぐにお腹が減ってしまいます。
口から肛門までがすべて満たされれば満腹を感じるのかもしれませんが、大きく成長した魚であればなかなかそういった機会はなさそうですね。

金魚やコイなどがどれだけごはんを与えてもずっと欲しそうにしているのはこのためですね。
金魚やコイなどがバーッと群がってくる様子を見て「ごはんもらえてなくてかわいそう・・・」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、もらってももらっても完全に満たされることはほとんどないためまるでごはんをもらってなかったかのように寄ってきます。
なんなら胃のある魚は余程痩せが目立つ個体でなければ2、3日に1回のごはんでも問題ないのですが、無胃魚はそれらよりも多い頻度でごはんを与えるようにしています。
とはいえ難しいのはここからで、一気に与えすぎると消化不良を起こしてしまうこともあるため、食べるからといってどんだけ与えてもいいというわけではないのですね。ごはんを与える量も水温や天候によって左右されますし、ただひたすら食べる魚であってもその時の状況把握や健康観察は絶対に欠かしてはなりません。

またコイに関しては体が通常でも70㎝ほどまで大きくなりますし、満腹感をなかなか覚えないうえ雑食性で何でも食べ、さらには汚れた水や環境変化にも強いといった最強格のスペックをもっています。
そのせいで本来の生息地から別の場所へ持ち込まれればそこにいる小さな水生生物をなんでも食べてしまいますし、体が大きいことで敵となる動物も自然界ではほとんどいなくなるためどんどん増えてしまいます。
私たちにとって身近な魚でもあるコイですが、海外の持ち込まれた国では外来種問題にまで発展しているところもあり、外来種の中でも特に生態系や人間の活動に与える影響が大きい生物をリスト化した「世界の侵略的外来種ワースト100」にも選定されています。

ではなぜこれらの魚たちは胃を持たないのでしょうか?

はっきりとした理由はわかっていません。

胃に物を貯め込まず体を軽くするためではないかといった説もありますが、トビウオのように飛ぶ魚であればその説でも説明がつくとして、他の魚はどうかわかりませんね。

ちなみに、サンマは内臓も食べることができそこの苦みを好む方もいらっしゃいますが、サンマの内臓を食べられるのは胃がないからですね。
さらにサンマの腸はとても短いので食べたものが体内にほとんど留まらず、そのおかげで内臓もおいしく食べることができます。

外から見ただけではわからない不思議がいっぱいあり、それが私たちの生活にもつながることがあるのでやはり動物っておもしろいですね!

飼育学芸員
フジ