アカメ《展示動物解説》
桂浜水族館の生きもの観察をもっとおもしろく、詳しく‼️
こちらでは水槽周りで紹介しきれない生きものたちの魅力を掘り下げていきます❗️
※生体の健康状態や展示替え等によって展示終了となりご覧いただけない場合もあります。ご了承くださいませ。
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◆標準和名 アカメ
◆学 名 Lates japonicus
◆分 類 スズキ目アカメ科
◆解説
アカメは日本にしかいない魚(日本固有種)で、静岡県の浜名湖から鹿児島県の屋久島にかけての太平洋沿岸域に分布しています。
東京湾や大阪湾での捕獲例もありますが極めて稀で、上述の地域の中でも主な分布域は高知県、宮崎県となっています。
なぜ目が赤い?
暗い場所で目が赤く光ることから「アカメ」という名がつけられていますが、これは眼球そのものに色がついているわけではありません。
アカメは夜行性の魚なので、暗闇の中でも活動できるよう少ない光を捉える必要があります。人間にはありませんが多くの動物の目には、わずかな光を効率よく集められるよう眼球の奥にタペタム(輝板)と呼ばれる反射板の役割を持った膜が存在します。
目に入ってきた光は網膜という組織で刺激として受け取られ脳に伝えられます。網膜はカメラのフィルムに例えられることがよくある組織ですね。
この網膜を通過した光はその外側にあるタペタムで反射され、再び網膜を通過させることでわずかな光を増大させ、それによって暗闇でも目が見えるようになっています。
身近な動物であればイヌやネコの目にもタペタムはあり、これによって夜間でも活動することができます。暗闇にいるネコの目に光が当たったとき目がピカッと光って見えるのは、タペタムに光が反射しているからですね。
アカメの目にもタペタムはありますが、タペタムには毛細血管が発達しており、アカメの目に光があたると毛細血管の色が反射して赤く見えます。
これがアカメの赤い目の正体です。
アカメの生活史
稚魚や幼魚は汽水域のアマモという水草が繁茂する場所に生息します。
小さい頃は体に縞模様が入り、頭を下に向けて静止することが多いためおそらく擬態しているのではないかと考えられています。
体の模様は成長につれ不明瞭になり、大きな個体ではほとんどわからなくなります。
成長とともに生息範囲を広げ、成魚は沿岸域や河口域などに生息します。
ただ、どのように産卵しているのかや、卵はどこで生まれ生まれたばかりの仔魚はどう言った行動をしているのかなどについてはまだ解明されておらず謎の多い魚でもあります。
アカメの大きさ
成長すると全長1mを超え、当館で飼育しているのもほとんどが1m前後個体です。それより大きいものを釣ったという記録も多数あり、野生では1.3m超えや1.4mに達する個体も存在します。
しかし言い伝えではそれらよりはるかに大きい個体もいたそうで、漁師さんが肩から担ぐと尾びれが地面にべたっと垂れるほどの大物もいたという伝説が語られています。そのような個体がいたとすれば全長はおそらく2mを超えているはずですが、もし本当なら夢のある話ですね!
ちなみにアカメはその大きさや希少性から北海道に住むイトウ(サケ目サケ科)、滋賀県の琵琶湖に住むビワコオオナマズ(ナマズ目ナマズ科)と並んで『日本三大怪魚』と称されています。
おもしろいことにこれだけ大きな体をしていて厳つい顔もしている怪魚アカメですが、実はとても臆病なんですよね。
かつては別の魚だった?
東南アジアやオーストラリアにはアカメとよく似たバラマンディ(Lates calcarifer)という魚がおり、かつてアカメとバラマンディは同一の種として扱われていました。
しかしアカメとバラマンディでは尻ビレの棘の長くなるところや目に光が当たったときの色などが違うことからこれらは別種ではないかと考えられるようになり、1984年、アカメには新種として「Lates japonicus」という学名がつけられました。
ちなみに、アカメは前から2番目の棘が最も長くなるのに対しバラマンディは3番目の棘が長くなり、光が当たった時の目はアカメが赤色でバラマンディは金色になります。他にも異なる点はいくつかありますが、比較的見分けやすいのはこういった点ですね。
アカメは幻の魚?
日本の限られた地域にしか住んでおらず、日本三大怪魚のひとつにも数えられるアカメ。しばしば「幻の魚」の名で呼ばれることもありますが実際はどうなんでしょうか?
環境省のレッドリスト2020において、アカメは絶滅危惧IB類に指定されています。
レッドリストは国際自然保護連合(IUCN)が作成した絶滅のおそれのある野生生物のリストで、日本でも環境省や各都道府県が独自のレッドリストを作成しています。
環境省レッドリストでは絶滅のおそれの程度に応じて次のようなカテゴリー分けがされています。
・絶滅
・野生絶滅
・絶滅危惧Ⅰ類(絶滅危惧ⅠA類、絶滅危惧ⅠB類)
・絶滅危惧Ⅱ類
・準絶滅危惧
・情報不足
・絶滅のおそれのある地域個体群
このうち、絶滅危惧Ⅰ類(絶滅危惧ⅠA類、絶滅危惧ⅠB類)や絶滅危惧Ⅱ類に指定されているのが絶滅のおそれのある種、いわゆる絶滅危惧種です。
絶滅危惧Ⅰ類は「絶滅の危機に瀕している種」と定義されます。
Ⅰ類はさらに絶滅危惧ⅠA類と絶滅危惧ⅠB類に区別され、
ⅠA類は「ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの」、
ⅠB類は「IA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの」と定義されています。
アカメは先述の通り絶滅危惧ⅠB類に指定されており、このカテゴリーに指定されている他の生物では、アマミノクロウサギやライチョウ、アカウミガメやタイマイ、ニホンウナギ、オヤニラミなどがいます。
主な生息地のひとつ宮崎県ではアカメを絶滅危惧Ⅱ類に指定しており、かつ指定希少野生動植物にも指定しています。
指定希少野生動物種とは、県内に生息・生育する希少な野生動植物のうち、特に保護を図る必要がある動植物のことで、これに指定されている動植物は捕獲、採取、殺傷または損傷することが禁止されています。
そのため宮崎県では釣りを含むアカメの捕獲が禁止されています。
一方高知県では、以前は絶滅危惧ⅠA類に指定されていました。
しかし県内の多くの地点で生息が確認されたことから2017年、注目種に指定されました。
高知県における注目種とは、今すぐ絶滅する恐れはなく高知県が作成するレッドリストにも該当しませんが、例えば県内では普通に見られるのに対し全国的には希少だったり特徴のある分布や生息の状況だったりすることから高知県の自然を代表すると考えられる種をいいます。
高知県では捕獲等が禁止されていないためアカメを釣ることは可能です。
しかし全国的に見ると希少な魚であることには変わりませんし、まだまだ解明されていないことの多い魚でもあります。
そのため、
・釣ったアカメはキャッチ&リリース!
・無用な殺傷はしない!
・販売目的での捕獲はダメ!
・高知で釣ったアカメを他の場所に持ち込むのも、他の場所から持ち込むのもダメ!
このようなルールが設けられています。
またこういったルールとは別に、釣り場で出たゴミは持ち帰る、海や釣り場にポイ捨てしない、禁止場所での釣りはしない、迷惑駐車をしないなど釣り人として最低限のマナーも守っていかなければなりませんね。
幻の魚ともいわれた魚が本当の幻になってしまわぬよう、自然やいきものたちに敬意をもって接していくことが大切ですね。
アカメ釣りと標識放流
高知県には大物のアカメを狙って県内外から多くの釣り人が訪れています。
当館でもたまにアカメ釣りについてご質問をいただくことがありますね。
ちなみに当館で飼育するアカメのほとんどが水族館のすぐ横にある浦戸湾で釣れたもので、釣った方が連絡を下さり教育目的で水族館に搬入して飼育展示を行っております。
アカメの群泳をご覧いただけるのも桂浜水族館ならではですね!
そんなアカメですが、当館では稀に標識の着いたアカメを搬入することがあります。この標識はアカメの成長や行動について調査するために大学や調査団体が装着したもので、このような標識を着けたアカメが釣れた際に釣った場所やサイズなどを標識に書かれている連絡先に伝えることでデータが蓄積されアカメの生態解明に繋がっていくというわけです。
多くの人がアカメを狙って釣りをされるためそういったデータも集まりやすいと思いたいところですが、そもそも標識放流をしていることが釣り人にあまり浸透していなかったり、そういった個体が釣れたとしても標識にコケが生えて気づいてもらえなかったりして記録されないままリリースされているのが現状です。
当館では標識放流の啓発や標識を着けたアカメが連れた際の再放流なども行っていますので、アカメを狙う際はその前にぜひ当館に足をお運びいただけると幸いです。
アカメはおいしいのか?
美味しいという人もいれば美味しくないという人もいます。
味自体は悪くないのですが、ウロコが非常に硬く調理にかなりの手間がかかるため、これだけ苦労したのにこの程度の味かとなってしまうことが多いんでしょうね。
食用として認知されることは少なく、流通することもほとんどないと言えます。しかし運よく見かけたら食べてみたいものです。
◆スタッフコメント
桂浜水族館といえばアカメ!
当館を代表するいきものですしものすごい熱量で書かせていただきました(笑)
アカメって不思議な魚で見ているとどんどんその魅力に惹き込まれていくんですよね。分かっていないことが多いぶん神秘的なものを感じますし、力強さを感じますし、当館のアカメたちはある条件でこちらを一斉に向いてくれるので妙な可愛さも感じますし、本当におもしろい魚です。
桂浜水族館で働いているといつも顔を合わせる顔なじみのような存在ですが、日本全体で見ると生息数は少ない種ですし、世界規模で見ると日本にしかいない貴重な魚なんですよね。そんな魚とともに働けるなんてとても幸せなことなんだなアカメたちを見ると感じます。
しかしただそう感じて自分だけが満たされていては意味がありません。水族館の役割、私たちの仕事は動物たちを飼育しその魅力やおもしろさを発信すること。1mほどのアカメが20数匹群れて泳ぐ圧巻の光景と合わせ、高知県の自然がどれだけ豊かなのかやアカメの現状、生態のことや標識放流のことなど知っていただきたいことは山ほどあります!
そういった情報をひとつでも多く発信できるよう展示やSNS、お客様との会話を通して魅力を広く発信していきたいですし、私たち自身ももっとアカメに触れ知識や理解を深めていきたいものです!
飼育学芸員
フジ