見出し画像

「動愛法の主な罰則」

〈動物愛護週間4日目〉
◆何をしたらどんな罰があるんだろうか?

動物の愛護及び管理に関する法律。
略称は動物愛護管理法または動物愛護法
さらに略して動愛法。

人と動物が共生できる社会の実現を図ることを目的としており、動物への虐待や遺棄を防止し、適切な飼養や人の身体・財産に対する危害等の防止について定めた法律ですね。

私たちは人間社会で生きる動物たちに心を癒され共に歩み、命をいただき、健康を支えられながら生きています。

しかし前回記事にした私の身の回りで起きていた事例のように無責任な飼い主によって捨てられる動物たちは世の中にいますし、虐待されたり傷つけ殺されたり不当な扱いをされる動物もたくさんいるのが現状です。

動物愛護管理法では愛護動物を殺傷したり苦痛を与えたりする行為や捨てる行為などが禁止されており、規定違反に対する罰則が設けられています。
前回は愛護動物を捨てること(遺棄すること)について触れましたが、それも含め主にどのような行為が法律違反でどのような罰則が設けられているのかについてご紹介していきます。

今回は長くなるので目次をつけさせていただきます。
ご興味のある所からお読みください。

◆愛護動物とは

まずは前回軽くふれた愛護動物について、おさらいもかねて見ていきましょう。
愛護動物とは以下の動物のことをいいます。

前三項において「愛護動物」とは、次の各号に掲げる動物をいう。
 牛,馬,豚,めん羊,やぎ,犬,ねこ,いえうさぎ,鶏,いえばと,あひる
 その他、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの

動物愛護管理法第44条4項

※上記の「前三項」とは、後述する動物愛護管理法第44条1項、2項、3項を指しています。

一の動物たちは人間の歴史とも深いかかわりのある動物たちですね。

これらの動物は「人が占有しているかどうか」について書かれていないため、例えば犬や猫であれば飼い犬、飼い猫のみならず野良犬、野良猫も含むものと考えられます。
ただし誰かに飼われているわけではありませんが人間社会に依存しながら生きている「野良猫(ノラネコ)」に対し、誰にも飼われず人間社会にも依存せず野山などで野生動物として生きる「野猫(ノネコ)」と呼ばれる猫もおり、これらの違いはあいまいな部分もあるためどう見分けるのかが難しいところですね。「野良犬(ノライヌ)」と「野犬(ノイヌ、ヤケン)」も然り。
野猫や野犬は「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(略称:鳥獣保護法、狩猟法)」という法律で狩猟の対象となっていますが、野良猫や野良犬は狩猟対象外で、それらを殺傷すると法律違反になります。しかし例えば山で「猫」を見かけた場合、それが野生で生きる野猫なのか、山まで遊びに来た野良猫なのか、はたまた山に迷い込んでしまいこれからおうちに帰ろうとしている飼い猫なのかなんてぱっと見ではわかりませんね。人の手を離らているから見ただけで判断して狩りをすると場合によっては動愛法違反になることもあり得ます。

二の動物は、一に書かれている動物以外の人間が占有している動物で哺乳類、鳥類、爬虫類に属しているものですね。

桂浜水族館における「愛護動物」。


一般家庭でも飼育されるインコの仲間やフェレット、ヘビやカメなどが該当しますし、家畜や犬猫以外の人間が占有する動物なので動物園や水族館で飼育されている哺乳類、鳥類、爬虫類もこれに該当するといえますね。
ただし、あくまで対象となっているのは哺乳類、鳥類、爬虫類であって、これらに該当しない両生類魚類および無脊椎動物対象外となっています。


◆動愛法の主な罰則

これらをおさえたうえでいくつかの罰則について見ていきましょう。

■愛護動物をみだりに殺したり傷つけたりすること

愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処する。

動物愛護管理法第44条1項

正当な理由なく愛護動物を殺した者や傷つけた者は5年以下の懲役または500万円以下の罰金が科されます。
ただし、例えば病気などで治療を行っている動物が治る見込みなしの場合やそれによって苦痛を伴っている場合、重度の運動障害、機能障害がある場合は安楽殺をすることが動物福祉的にも適当であるとみなされます。こういった場合、獣医師は飼育者と十分な協議をし、同意のうえで安楽殺を行うことになりますがこれは正当な理由といえますね。もちろんですが、安楽殺はできる限り動物に苦痛を与えない方法で行わなければなりません。これについては同法第40条1項にも規定があります。

動物を殺さなければならない場合には、できる限りその動物に苦痛を与えない方法によつてしなければならない。

動物愛護管理法第40条1項


■愛護動物を虐待すること

愛護動物に対し、みだりに、その身体に外傷が生ずるおそれのある暴行を加え、又はそのおそれのある行為をさせること、みだりに、給餌若しくは給水をやめ、酷使し、その健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束し、又は飼養密度が著しく適正を欠いた状態で愛護動物を飼養し若しくは保管することにより衰弱させること、自己の飼養し、又は保管する愛護動物であつて疾病にかかり、又は負傷したものの適切な保護を行わないこと、排せつ物の堆積した施設又は他の愛護動物の死体が放置された施設であつて自己の管理するものにおいて飼養し、又は保管することその他の虐待を行つた者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

動物愛護管理法第44条2項

・正当な理由なく暴行を加える(殴る、蹴るなど)。
・怪我するおそれのある行為をさせる(熱湯をかける、高所から投げ飛ばすなど)。
・酷使する。
といった、意図的に動物を傷つける積極的虐待はもちろん罰則の対象となります。

しかし、以下のような行為も虐待といえます。
・ごはんや飲み水を与えない。
・健康や安全を保持することができない環境に拘束する。
・不適切な環境で飼育する(狭いところでぎゅうぎゅうに飼育する、糞尿だらけや死体が放置された場所で飼育するなど)。
・それによって動物を衰弱させる。
・病気になったり怪我をしたりしても適切な保護をしない。

やらなければならないことをやらない、いわゆるネグレクトというものですね。
人間の世界でも、親が子供の面倒も見ず放置して遊び惚けているとか、子どもやお年寄りに食事を与えなかったりお風呂に入れてあげなかったり、体から異臭を放つほど不適切な環境に置かせてたりするとかそういった行為は虐待ですし、動物に対しても同じです。

愛護動物を虐待した者には1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます。


■愛護動物を遺棄すること

愛護動物を遺棄した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

動物愛護管理法第44条3項

これは前回も触れた部分ですね。
愛護動物として私たちと生きる動物は、ごはんや健康、安心できる環境などなど人間が保護できる範囲の中で生きています。
そういった動物たちを飼育していたところから遠く離れた場所へ連れて行き置き去りにするとどうなるでしょうか。
動物たちはどこかも分からない場所をさまようため疲労感や飢えに苦しめられます。人間の保護下で生きてきた動物にとって野生とは外敵だらけの世界ですし、ごはんや水、雨風をしのげる場所も自分で見つけなければなりません。思わぬ事故に遭う確率も高くなります。
誰かに拾われることを前提として街中に置いたとしてもすぐに心優しい人が見つけてくれるとは限りませんし、やはりその間動物たちは飢えをはじめ様々なものに苦しめられることとなります。自分で行動できたとしても交通事故に遭う可能性もありますしね。
たとえ直接傷つけなかったとしても、このような環境に捨てられることで動物たちの生命・身体・健康は危険にさらされることになりますし、外来種問題という新たな悲劇を招くことにもつながります。

「動物だから自然の中で元気に生きてね」「優しい人に拾われてね」
これらは多くの人や動物に迷惑をかける無責任な言葉であり、愛護動物を遺棄した者には1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます。


■特定動物を飼育すること

動物愛護管理法第44条では愛護動物に対する殺傷・虐待・遺棄についての罰則が規定されていました。
次にご紹介する第45条では、特定動物とその交雑種を飼養または保管した者に対する罰則が規定されています。
特定動物とは、人の生命、身体または財産に害を加えるおそれがある動物として政令で定められている動物(哺乳類、鳥類、爬虫類)のことです。
強力な牙や爪、強い毒、高い運動能力を持っている哺乳類、鳥類、爬虫類で、トラ、クマ、タカ、コンドル、ワニ、マムシなど約650種が対象となっています。まずは第45条の条文を見てみましょう。

次の各号のいずれかに該当する者は、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
 第25条の2の規定に違反して特定動物を飼養し、又は保管した者
 不正の手段によつて第26条第1項の許可を受けた者
 第28条第1項の規定に違反して第26条第2項第2号から第7号までに掲げる事項を変更した者

動物愛護管理法第45条

第25条の2では特定動物とその交雑種を飼養または保管することが禁止されており、許可なく特定動物を飼養または保管したものは6月以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます。

◆特定動物を飼育できる場合

ただし全てにおいて飼養や保管が禁止されているわけではありません。
もしそうであれば動物園で猛獣を見ることもできませんしね。

動物園や研究施設などにおいて愛玩以外の目的で飼育する場合は、特定動物の種類や飼育施設ごとに所在地を管轄する都道府県知事の許可を得なければなりませんし、許可は一定の基準を満たさなければ得ることはできません。
動物園や水族館で見られる「人気者」といわれる動物たちの一部は様々な手続きを経てそこにいるんですね。

ただしこの許可を不正に取得した場合や無許可で飼育施設を移したり構造を変えたり保管方法を変えたりし場合などは罰則の対象となります。が、文章があまりにも長くなってしまうためこれらの説明については割愛させていただきます。

愛護動物に対して特定動物は動物園、水族館にいるような動物を指しており一般家庭で飼育できる動物としては直接関係ないようにも感じがちですが、例えば田んぼでマムシを捕まえて許可なく飼育を始めた場合や川にいたワニガメをこっそり持ち帰って飼育を始めた場合などは法令違反となりますのでご注意ください。

◆自身が傷つける側に立たないためにも

ほかにも動物を取扱いする者に関する規定や違反をした際の罰則などもありますが、比較的身近なところで起きてしまっている問題に対する罰則をメインに書かせていただきました。
法律では愛護動物の殺傷・虐待・遺棄、特定動物の無許可飼育について罰則が設けられており、違反者が逮捕されたというニュースを目にすることもあります。動愛法は2019年に法改正がなされ愛護動物を殺傷、虐待、遺棄した者に対する罰則は強化されましたが、それでも完全になくなるまでの道のりはまだ長そうにも感じます。
動物と共に暮らす人やこれから飼育を始めようとしている人にできることは、こういった法律のことを少しでも知っていただくとともに、現状も知り自身が動物を傷つける側に立たないよう命と向き合い終生飼育を徹底することですね。
動物と一緒に暮らしていると大変なことも多々あります。しかし命を預かると決めたその手の中で安らかに最期を迎えられるためにも知っておかなければならないこと、持っておかなければならない覚悟や責任はたくさんありますね。

飼育学芸員
フジ