アカメ飼育と私たちの活動
アカメというお魚をご存知でしょうか?
アカメはその名の通り赤い目が特徴のお魚で、大きな個体では全長1.3mにもなります。
稚魚・幼魚は淡水で過ごし、成魚になると汽水域(海水と淡水がまじり合う場所)や沿岸の浅い海へと生息域を広げていきます。
日本にしかいないお魚(日本固有種)で、静岡県から鹿児島県の種子島にかけて分布していますが主な分布域は高知県と宮崎県、それ以外の地域での発見例は多くありません。
その大きさなどから北海道のイトウ(サケ科魚類)、琵琶湖のビワコオオナマズ(ナマズ科魚類)と合わせて『日本三大怪魚』とも呼ばれます。
このようなアカメを当館では23匹飼育しております(2023年12月現在)
赤い目が多数並んでこちらを見る光景は圧巻ですね!
当館ではアカメを飼育しているご縁もあって、地域の方がアカメを釣り上げたら連絡をくださることもあります。
今年の10月上旬、当館に2匹のアカメを搬入しました。
うち1匹は背ビレ付近に黄色い標識をつけており、もう1匹は下顎が異様に短い個体でした(下顎異常の個体は現在展示水槽内で飼育及び生体の観察を続けています)。
アカメ1は標識をつけていたことから過去に標識放流された個体だと判断しアカメの標識放流活動を長くされている「アカメと自然を豊かにする会」の長野博光氏に連絡をさせていただいたところ、このアカメは9月25日に釣り上げられその時に標識を付けた個体であることが判明しました。
標識放流は、アカメの移動範囲や成長などを記録しアカメの生態解明に役立てることを目的に行われています。
この個体も再放流をすることにしましたが、以前釣られた時点ですでに右下顎に大きな傷があり、かつ今回釣られたときできたであろう体表面の擦り傷があったためしばらく当館で療養したのちに放流することとなりました。
水族館バックヤードで半月ほど療養や経過観察を行い、体の擦り傷も回復してきたため10月31日にこのアカメが釣れた浦戸漁港で再放流を行うことにしました。
ちなみに療養期間中は初日こそ体をやや傾けていましたがすぐに水槽の底で姿勢を安定させていました。悪い意味での目立った変化もなく期間を過ごしていました。
10月31日、放流当日。
アカメ1をバックヤードの水槽から軽トラのタンクに移し浦戸漁港へと向かいました。
浦戸漁港にて、アカメと自然を豊かにする会の長野氏と9月25日にアカメ1を釣り上げ標識放流をされた同会会員の前田氏と合流。
前田氏は過去に何度もアカメを釣り上げ標識放流をされてきた方で、飼育こそしているがフィールドでのノウハウがまだまだ未熟な私たちは釣った直後のアカメの扱い方や注意点、アカメの蘇生方法などを学ばせていただきました。
※蘇生方法について
アカメを釣った後に撮影を行うとき、その準備をしている間アカメを陸に上げると当然弱ってしまうし良い状態で撮影することはできません。また、そのままリリースする場合も釣られぬよう必死に抵抗した結果相当体力を消耗しており何もせず逃がしてもすぐ力尽きてしまうことがあります。
そのために蘇生というものを行います。
・蘇生はまずフックをアカメから外して下顎の下の膜に穴を開け、ストリンガーというものを通します。これをつけることによって水の中でアカメを繋いでおくことができます。なお十分な強度が無いとアカメは力が強い魚なので壊して逃げられることがあるとのことです。
・繋いだらアカメの口を手で拡げ、前後に動かしながら鰓(えら)に水を送ったり口の前で手をバタバタ動かして泡を鰓に送ったりします。自分で体を起こせないほど弱ったアカメは体を支えてやりながら行うのが良いとされています。
・自力でヒレを動かしたり体を安定させることができるようになったり、口を持っている手を噛めるくらいになったらストリンガーを外しリリースします。
ストリンガーを通した穴は自然に治癒するため穴を開けること自体は問題ありませんが、ロープなどを鰓に通すと鰓を傷つけさらに魚を弱らせてしまうためやってはいけないことです。
アカメ1の再放流は熟練の前田氏と初の経験となる私の2人で行いました。
念には念を入れてアカメ1を前後にゆっくり動かして鰓に酸素を送り、しばらくしてから放流をしました。
自分の力で海底の方に泳いでいきすぐに姿は見えなくなりました。
私たちがアカメの放流活動に携わらせていただいたのは少なくとも私が就職してから初めてでしたが、良い経験をさせていただけたと同時にアカメの保護や生態解明に繋がる活動をもっと精力的に行っていかなければと実感しました。
桂浜水族館では多くのアカメを飼育していますが、アカメを見てくださった方にアカメという魚の迫力やおもしろさだけでなくこういった活動の内容やアカメの現状についてもより身近にお伝えしていけるよう今後もこういった活動は続けて行きたいと思います。
最後に、アカメの標識放流は釣り人の協力があって成り立つ活動でもあります。しかし釣り人の間ではまだまだ知名度が低く、また標識も時間が経つにつれコケなどが付いて見にくくなってしまうことからそういった個体が釣れても何の報告も記録もされずリリースされることが今も多いというのが現状です。
この記事を読んでくださった方の中にはもしかしたらご自身やご家族、友人が釣りをされる方もいらっしゃるかと思います。もしよろしければこういった活動がされていることを知っていただき、みんなでアカメの生態解明に取り組んでみませんか?(^^)
海獣飼育主任学芸員
フジ