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「水族館の動物ってうちでも飼えるの?」

〈動物愛護週間5日目〉
◆ペンギンを飼うのは大変!?

私は飼育者として水族館で働いていますが、ペンギンやカピバラなどのお世話をしているとたまに「この子らってうちでも飼えるの?」って質問をいただくことがあります。

大人のお客様からも小さな子どもたちからもいただくこの質問、やはり気になるところなんだなって感じますね。
家のお風呂にちゃぷんと浸かるカピバラや自宅用のプールでバシャバシャするペンギンってその姿をイメージすると夢がある話にも思えますし、例えばリクガメのように一般家庭でも飼育可能な動物もいるため同じく小さな動物であればいけるんじゃって気持ちもわからなくはないです。

ただ、私の職業は水族館の飼育員。
夢を膨らますことも大切なお仕事ですが、現実をお伝えすることもまた大切なお仕事なのです。

例えばペンギンですが、絶滅のおそれのある野生動植物種の国際取引に関する条約であるワシントン条約(SITES)によって一部の種は国際間の取引が規制されています。日本で最も多く飼育されているフンボルトペンギンは、ワシントン条約の付属書Ⅰというものに掲載されており、学術目的などでの輸入は例外として可能ですが輸出国と輸入国双方の政府が発行する許可証が必要となります。商業目的での取引は原則禁止なので、ペットとして飼いたいからといって海外から購入することはまず不可能です。

実は絶滅危惧種でもあるフンボルトペンギン。

ただしすべての種がダメというわけではなく、日本国内で繁殖させた個体であれば購入は不可能ではないような種もいます。

どの種がいくらかかるのかはわかりませんが、仮にそういった種を購入できるとしましょう。
ですが揃えなければならないものはたくさんあります。
そのひとつが飼育スペース。一般家庭用の小さいお風呂ではなく運動するための広いプールは必要ですし、歩き回れる陸地や安心できる巣もいりますね。ペンギンは海鳥なので理想は海水です。真水だとペンギンたちに必要な塩分が不足するためごはんに塩分を足さなければなりませんが、ただ足せばいいというわけではなく塩分過多にならないよう量を調節しなければなりません。
水換えの頻度も大切ですね。ペンギンは水の中でもフンをするので何日も同じ水を使い続けると環境が悪くなります。なので水道代はかなりかかります。

次にごはん。
当館ではアジやイワシ、キビナゴなどを食べますが食べる量は多いのでその分魚は多くいりますし、冷凍の魚を保管する大きな冷凍庫も必要ですね。
ごはん代も決して安くはありません。

ごはんを食べたら当然排泄もしますが、ペンギンたちに「ココがトイレだ!」なんて概念はありません。どこにでもします。真横に人がいてもペンギンがいてもお構いなしでします。私は体にも顔にも何度もかけられたことがありますね。
後ろに向かってピュッと出すのですが水っぽいため結構飛び散りますし、臭いも決していい臭いとはいえません。

同じペンギンですらこんなことに・・・。

仮に室内で飼育するとなれば冷暖房設備は備えておいた方がいいです。ごはんを保管する大きな冷凍庫も動かした状態なので電気代も高くなりますね。

運動をさせることも重要で、運動不足は肥満にも繋がりますし長時間陸上で過ごす時間が増えると趾瘤症(しりゅうしょう)という脚の病気にもなります。

病気になったら動物病院のお世話になりますが、ペンギンを診てもらえる病院が果たして近くにあるのか?

またペンギンはカビ(真菌類)に弱く、カビが原因で発症する病気になると高確率で命を落としてしまいます。その予防としてもカビが発生しやすい環境もなるべく避けなければなりませんね。

ちなみにペンギンの飼育下での平均寿命は20〜25年、長ければ30年を超えることもあります。

ここまでいろいろ書いてきましたが、これらのことを考えると仮に個体を入手できる手段があったとしても迎え入れたあと一般家庭の設備で適切に飼養できるのかといえば難易度はかなり高くなりますし、結論として一般家庭での飼育は向いていないという答えに辿り着きます。

カピバラも同じく広い飼育エリアを構えたくさんのごはんを用意しなければなりませんし、いろんなものを齧るため齧られて困るようなものを置くことはできません。
こちらも同じく、一般家庭での飼育は向いていませんね。

世の中には水族館や動物園にいるような動物を一般家庭で飼育している人もいますが、諸々考えるとやはり水族館や動物園にいる動物たちはそれら施設で会うのが1番だと思いますね。
なので、興味を持った動物がいましたらぜひ水族館や動物園に足を運んでください!

飼育学芸員
フジ