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ペンギンって噛むの?痛いの?どーなの?

「ペンギンって噛んでくるの?」

「喉の奥にギザギザがあるのは見たことあるけど歯はなさそうだし痛くないのかな?」

「くちばしの先がとがった鳥だと突かれると痛そうだけど、フンボルトペンギンは丸みを帯びているしそこまで痛くなさそう・・・?」


さぁ、どうなんでしょうか。


ペンギンですが、噛まれると結構痛いです。
もう一度言います、結構痛いです。
しかもただ痛いだけではなく、くちばしの構造上いろんな痛みがあります。
下の写真をご覧ください。

まずは赤い丸の部分にご注目。
この部分は泳ぐ魚を捕まえるためフックのような形をしています。

ペンチで手をバチンッと挟んでしまったという経験のある方はいらっしゃいますでしょうか?大変心苦しいですがその時の痛みを思い出してみてください。
その一点集中版の痛みがこのフックによって繰り出されます。

私がフンボルトペンギンの横に立った時ペンギンの頭が膝あたりに来るのですが、頭を伸ばすと膝周りから太ももの半分くらいまでが攻撃範囲に入ります。
長靴を履いている部分は厚いゴムによって痛みをほぼ感じなくなるのですがそうじゃない膝周りや膝裏、そして内ももなんかはもうたまったものではありません。
常に痛みに対して身構えているときならまだしも不意にガチッと噛まれたら痛みをこらえきれず声が出てしまうくらいです💦💦💦(痛みをこらえるのに必死で数秒動きが止まってしまうことも・・・)
しかもなぜか噛むだけでなく、噛む・ひねる・引っ張るの3連コンボ・・・
数十か月経ったのにいまだ消えずに残っているあざも数多くあるくらいです。

噛まれて1日2日はこんな感じになります。
くっきり跡が残るほどですし、想像を超える痛さです。


よく嚙んでくるペンギンの1羽「シズカ」。2006年生まれのオスで、当館のペンギンの中では高齢の域に入りつつあるペンギンですが体は大きく力も強い。他のペンギンにも私たちにも容赦はありません。

次に黄色の丸の部分。
この部分はするどいので噛まれるとよく切れます。
特に私たちは手が濡れた状態でごはんをあげるので切れやすくなっているんですよね。
くちばしの先は尖ったもので挟まれひねられ引っ張られる痛さですが、こちらはカッターのような刃物でシャッと切ったような痛さがあります。
こちらも傷跡はよく残るため、長年ペンギン担当をしている私の手はその傷だらけです💧

よく噛んでくるペンギンの1羽「ハク」。シズカの弟にあたる。人工育雛によって育ったペンギンで相性のいいスタッフに対してはとても心を開きますが、そうでないスタッフに対しては目の色を変えて嚙みつくこともあります。私との相性は良好ですが、ごはんのときは「早よおくれ」といわんばかりに足を噛んできます。それでも仲は良好です(;'∀')


こんな感じで普段顔を合わせる機会が多い飼育員とペンギンたちですが、噛まれるときはめちゃくちゃ噛まれます。特にごはんの時間は。

それ以外でもたまに噛まれることはありますが、その理由を自分なりに考えてみました。

私たちの「手」に相当するもの、それがペンギンたちのくちばしとも言えます。
一緒にいるとよく見かける光景ですが、落ちている石に興味を持てばくちばしでつんつんしますし掃除中のホースも突いて遊んできます。繁殖期に巣材となる石や落ち葉なんかもくちばしでくわえて巣に運びます。

私たちの場合、興味のあるものを見つけたら手を伸ばしますよね。
嫌なもの怖いものが近くに来たら手で追っ払おうとしたり反撃したりもします。
相手に気付いてほしかったら体をポンポンとたたくときもありますね。
その手がくちばしに置き換わっただけなんだと考えています。

そう考えるとこちらの不注意で噛まれる以外にペンギンたちが突いたり噛んだりしてくる理由がある程度想像できます。
例えばごはんのとき足を噛んでくるのは早くほしいからとかごはんを待っている自分に気付いてほしいから。

また私たち飼育員はペンギンたちの生活の中ではあくまで外部の存在。いつも顔を合わせていても繁殖期になると巣やペア、卵に生まれた我が子を守らなければなりません。そのため少しでも怖い、近づいてほしくないと思えばたとえ私たちや同じペンギンであっても容赦なく攻撃し追い返そうとします。
(家族やわが子を心から愛している方にはわかっていただける感情かと思います)

「噛んでくるぞ!」とだけお伝えするととても凶暴な動物と捉えられてしまう恐れもありますが、ペンギンたちにはペンギンたちなりの考えがあってその行動に出ます。

決して悪気があるわけではありません。
それがたまたまくちばしという鋭い部位によるものであり、かつ力加減も私たちとペンギンとでは異なるため噛まれた側がケガすることもあるだけであって。

私たちとペンギンたちとでは言葉は通じません。
しかし彼らの行動を日々観察することによって気持ちをある程度推測することはできますし、当てはめに過ぎませんが気持ちを知ることもできます。
その積み重ねでペンギンたちのことを深く理解し適切な距離感を保っていくことがお互いのためにも大切ですね。

以上、ペンギンに噛まれたら痛いのかとペンギンたちが噛んでくる私なりの理由でした。


最後に、当館ではより近くで動物たちを見ていただき興味や理解を深めてもらいたいという想いから場所によっては手を伸ばせば届きそうなくらい近いところに動物たちがいるという展示法を採用しています。

舎の周りには注意書きもありますし、多くのお客様にルールを守っていただいてますが、それを守らず不用意に手を出すと彼らはその手に興味を持って(あるいはごはんかなんかと間違えて)ガブッと来ることもあります。ここまで書いてきた通り、噛まれるととてつもなく痛いです。
また、痛いからという理由だけでなく動物と人との共通感染症にかかる可能性も充分ありますし、怪我した側には跡の残る傷が、噛んでしまった側には人を傷つけた危険で悪いやつという悪名がついて回ることになります。
「けど自分ペンギン好きだし噛まれても幸せです!」そういう方も中にはいらっしゃるかもしれませんが、お客様には安全に動物たちのことを知っていただけるよう、動物たちには安心してこれからもここで暮らしてもらえるようルールやマナーの遵守にご協力いただきますようお願いします。

ペンギン舎周りに貼っているPOPのひとつ。


ご理解いただいた上で動物たちに会いにきてくださる皆さまに深くお礼申し上げます。

(ペンギンに噛まれた傷がどんなのか気になる方がいましたらぜひ私にお声掛けください🙇‍♂️)


飼育主任学芸員
フジ

最後に、迫力のある1枚を。