見た目が違っていたって。
アカメ飼育と私たちの活動|桂浜水族館 公式 (note.jp)
以前上の記事で当館に下顎異常のアカメが搬入されたという話をほんの少し書かせていただきました。
今回はそのアカメのお話です。
(まだ読んだことないよという方がいらっしゃいましたら是非ご一読くださいませ)
下顎異常のアカメ、以前は「アカメ2」としておりましたが現在は「ago」という愛称で呼んでおります。そのためここではその愛称で書かせていただきます。
agoは昨年の11月10日、日々の様子や給餌時の姿をより見やすい角度から観察するため展示水槽に移しました。
移動の数日後、アカメたちのごはんの日だったためアジを水槽内に投げ入れるも全く反応せず。
他のアカメたちがアジの下りてくる方へ集まっていくのに対しagoは見向きもせず群れの外にいました。
そこから毎日ごはんの時も前を通りかかったときも様子を見ていましたが他にいじめられている姿や完全に孤立している姿は見られず常に数匹の他のアカメたちと底の方にいる状態。たまに中層あたりを泳ぐこともありましたがそれ以外に変わった様子はなし。
これまで水槽にいたアカメたちと同じような日々を過ごしていました。
違うところはその見た目とごはんに反応しないということだけ。
アカメたちのごはんは週3回、一見少ないようにも思えますがアカメたちにとってこの間隔でのごはんが適量。
アカメの給餌は2人一組で行い、バックヤードの水槽上部からアジを入れる側と横から食べている様子をチェックする側の2手に分かれます。
様子を見る側はアカメたちにある合図をし、アカメたちがそれに気づいたらごはんスタート。
長年この水槽にいるアカメたちはこの合図にすぐ気づいてくれますが、新しく入り餌付いていない個体はこれが何のことなのかさっぱりわからず他とは違った行動をとります。
agoも例にもれずそういった状態がしばらく続きました。
魚に詳しい魚類班スタッフいわく、過去には1年ほどまったく何も食べなかった個体もいたそうなのでagoが食べ出すにも相当な時間がかかるんだろうな~とこの時すでに覚悟はしていました。
しかし12月末のある日、いつものようにアジを投げ入れるとagoが落ちてきたアジを追いかけるような反応をしました。食べるには至りませんでしたが興味を持ち始めたという点においては大きな一歩でした。
あの顎をどのようにしてごはんを食べるのだろうか?このサイズまで育っているのだから当然野生下でも獲物を食べることができていたはず。その様子がとにかく気になる。
そんな気持ちで臨んだ今年1月最初の給餌では食べる姿を確認できず。それどころか前回見られたアジを追う行動もみられず。
まぁ、そういうときもあるだろう。
普段の行動に大きな変化は見られないし痩せている感じもない。
このアカメのペースもあるのだろうから普段通り様子を観察し次の給餌に備えよう。
そんなこんなで迎えた1月4日の給餌。
いつもと同じく水槽に向かってアジを投げ入れそれに反応するアカメたち。
反応の良い個体はアジが真ん中へ落ちてくるよりも先に水槽の上の方へ上がってアジを食べます。
その間を縫って落ちてきたアジが偶然にもagoの前に。するとagoが吸い込むようにアジを食べました。これが当館に来て以来初の摂餌となりました。
その後続けてもう1尾。積極的にアジに向かっていったわけではありませんでしたがしっかりと2尾食べた姿を確認できました。
食べ方は他の個体と変わらず。下顎が短いというハンデはあまりないようにも感じました。
そこから次の給餌でも食べる姿を確認。その次も次の次も。
食べることに慣れてくると自分からアジに向かって進んでいき食べる姿も見られるようになりました。
今では問題なくアジを食べますし、給餌時間とタイミングが合えばお客様にもその姿をご覧いただけます。
アカメは強い魚と聞いていましたが、体の異常もものともしない強さを秘めていることに驚かされました。
しかしこの個体がどういった経緯でこのような顎になったのかは推測の域を出ませんが、以前の記事で触れさせていただいたアカメ1のように人間の手によって顎に大きな傷を負ったと考えられる魚もいます。
奇跡的に回復する個体もいれば知らぬところで餓死していく個体も多く存在していると考えられますので、私たち人間が自然の中で楽しませていただくときは自然にもそこにいるいきものたちにも最大限の敬意を払いルールやマナーを守っていかなければなりませんね。
1人1人の行動は小さいかもしれませんが、良い行いはみんなで守っていくときっと大きな結果につながると思います。
以上、下顎異常のアカメことagoの日常についてでした。
飼育主任学芸員
フジ